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森田圭介

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本能寺の義の話

 

時は天正六年、本能寺の変が起こるおよそ四年前。

しんしんと雪の降り積もる、音の無い静かな新月の夜。

後に天下人となる豊臣秀吉こと羽柴秀吉は、護衛の家臣も付けずに没した寺の境内で人知れず一人の男をじっと待っていた。

おう光秀、よう来てくれたの。

今茶を立てるでの、そこに掛けてくれ。

本来ならば偉うなったお主には敬語を使わんといかんとこだが、ここには誰もおらんゆえ無礼をするぞ。

しかし寒いのぉ、お主、身体の方はどうじゃ。

近頃の戦続きでお主とじっくりと話しをする機会もないでの。

わしか。

わしは元気じゃが最近腰が痛うてのぉ、特にこういった寒い日は尚更じゃ。

さぁ茶が立った。

そう言えば、お主との付き合いも長いが、こうして二人で茶を飲むのは初めてじゃの。

幸か不幸か、わしらみたいな者がとんとんと出世して、友と茶を飲む暇も無くここまで来てしもうた。

いや、幸に決まっておるのじゃがの、わしは最近ふと考えることがあるのじゃ。

もうしばし時が経てば、信長様の天下の世が来る。

信じられん話じゃが、そうなればわしらも天下人の側近じゃ。

食うにも困ったわしやお主が、天下人のお側でお務めをする。

こりゃあ、もしかしたら夢でも見ておるんじゃなかろうかと、わしは最近心底思う。

家を捨てた当時の貧相な暮らしからは考えられん程の馳走が並べば、良い夢じゃとも思うし、戦に出た時やら寝首を掻かれんかと心配で眠れん夜は、どうにも悪い夢であってくれと願う事もある。

毎日が夢か現か。と、ふわふわとしておっての。

その様な状態で色んなことをじーっと考えておるとの、わしはつまらぬ事を思い始めた。

いや、つまらぬ事ではあるまい。

のう光秀。

天下とは、なんじゃ。

わしはお主と違って馬鹿じゃからのぉ、信長様の天下統一を目前にして、そればっかりを考え込まなならんかった。

いや、実はずっと前から考え続けとった、わしらが欲しがる天下とはなんぞやと。

での、わしは思うたんじゃ。

信長様にしろ、わしらにしろ、他の武将達も欲しいものは、まさか〝天下人〟なるその名ではあるまい。

そんなものであってたまるものか。

そんなものであって良いはずがなかろう。

なあ光秀よ。

わしが思うておる、皆が目指す天下とはな。

その名の通り天下人となり、天下に住まう人々が泰平に暮らせる世を、作ることじゃ。

自身の望む泰平の世を作ることじゃ。

その世を作るために戦の度に雑兵は死に、わしらは生き続けており、望む世を作り上げようとしているのじゃなかろうか。

少なくともわしはそうじゃ。

昔のわしやお主の様に食うや食わずの子らが、この世からいなくなればええ。と、わしは思うとる。

その世こそが、わしの欲しい天下じゃ。

天下人なんぞ、その世を作るための何の意味もない飾りに過ぎん。

そうは思わんか光秀。

でなければ、死んでいった者らに顔向け出来ん。

わしはもう人が死ぬのをこれ以上見とうない。

での、光秀。

わしが今日お主を呼び出したのは他でもない。

わしが欲しい天下を目指すには、今のままでは無理じゃと思うての、お主に手伝うて欲しいのじゃ。

このままいけば信長様が天下人にはなるであろうが、わしらの欲しい天下は手に入れられんと思うとる。

なぜならの、信長様が天下人になられても、それを良く思わん他の者が、信長様の首を狙いにまた戦を仕掛ける。

ずっとこれの繰り返しじゃ。

これでは泰平の世など来やせん。

そこでじゃ。

信長様には表舞台から消えていただこうと考えておる。

いや待て光秀。

これは何も謀反の計画では無い、そんな事をわしが企てる訳がなかろう。

信長様に死んでもらおうという訳ではない。

信長様にはの、死んだ事になってもらおうと考えておるんじゃ。

わしはの、光秀。

信長様に天寿を全うせずに死んで欲しゅうはないんじゃ。

それはお主とて同じじゃろ。

あのお方は、決して死んではならんお人じゃ。

しかしの、このままゆけば如何に信長様が魔王じゃというても、この殺し合いの螺旋から逃れられんじゃろうて。

自らが望んだ道とは言え、ましてや信長様自身の野望を貫かんが故の覚悟もおありであろう。

今後天下を目指す道中で、または天下人となられた後に、その天下もろともまた首を狙われる。

わしはそんなのは嫌じゃ。

わしやお主らを身分も関係なく拾うて、人として使うてくれた大好きな信長様が死ぬなんぞ考えたくもない。

そもそも、わしは信長様に天下人なんぞというお飾りになって欲しいとも思わん。

そこでな。

わしは信長様が死なんで済む策を考えた。

まぁ聞いてくれ。

まず、皆の者にわしが信長様を恨んでいると思わせる。

普段から信長様の側に付き、事あるごとにわしを叱責して頂く。

やれハゲだ、使えないだのと、皆がわしを気の毒に思うほど信長様に叱責して頂き、それをこれから四、五年先の策の決行の時まで続ける。

すると周囲はこう思うじゃろう。

このままでは、秀吉は信長様に謀反を起こすのではなかろうか、と。

そうなればしめたもの。

この頃には、わしは信長様へ恨みを持つものとして、皆に了知されておるはずじゃ。

での、わしは実際周りの武将に、信長様への謀反を考えていると触れ回る。

さすれば、その話に乗ってくる武将はたくさんおろう。

何しろ今から四、五年後といえば、わしの読みでは大方信長様の天下統一はなされかけておるじゃろうよ、後は中国をどう落とすか、というところまでいっておろう。

そして、その頃お主は信長様に中国攻めを任されておる最中じゃ。

お主はわしが信長様討ちの策を他の武将と共に企てることなど知らぬ体で、中国をひたすらに攻め続ける。

そんな中。

場所はそうじゃのう、京の本能寺辺りが良かろう。

あそこに、真に信頼の置ける家臣達だけを信長様の周りに置き、信長様に滞在して頂く。

そして、わしは結託したと装った周りの武将達に、信長様を討ちに本能寺へ攻め入ると宣言する。

しかし配下の兵達には、まさか信長様を討ちに本能寺を攻めるとは言わん。

信長様へ忠義立てする兵もおるじゃろうからの。

わしはただ一言。

敵は本能寺にあり、とだけ雄叫びを上げる。

そして、真に本能寺へ攻め入る。

火攻めにして寺は丸焼けじゃ。

その際、信長様には寺から退避して頂いておく。

丸焼けの寺からは沢山の焼死体が出る。

その中に信長様がおったと言えば、信長様がそこにおらんとは誰も思うまい。

いや、思うたとしても見定める術も無い。

信長様には、どこかの片田舎に御子息と共に退避して頂き、今後の余生をのんびりと過ごして頂く。

こう言うちゃなんだが、信長様の御子息の中には出来の良くない子もようけおる。

その子らは、片っ端から死んだ事にしてしもうて、信長様の元へお送りするんじゃ。

なに心配ない、人里離れた田舎なんぞに信長様の顔を見た者などおらぬ。

絵師が描いた絵など、全然似とらん。

そもそも死んだはずの信長様が、片田舎で余生をのんびりと過ごしておられるなど誰も夢にも思うまい。

そしての、ここからがこの策の肝じゃ。

中国攻めの真最中であるお主は、信長様討ち死の報を聞きつけ、仇であるわしの首を狙いに中国よりすぐに京へと戻る。

そして、わしを見つけ次第わしの首を刎ねる。

そらそうじゃ。

わしは信長様を討った極悪人じゃからの。

そこまで終えて、お主は各国に触れ回る。

信長様を討った、秀吉の首を取った我こそが天下人である、と。

信長様を討ったわしを討ったとなれば、各武将達も静かにならざるを得ない。

世の混乱に乗じて、お主は天下人になったと高らかに宣言するのじゃ。

お飾りになるお主には悪いがの、出来る者の務めじゃ、まぁ許せ。

そして、ここからこの策の仕上げに入る。

ここからお主は、家康殿と戦を行う。

長い長い静かな戦をし、徳川殿に敗れる。

わしはの、光秀。

この乱世を泰平の世に出来るのは、家康殿を置いて他にはおらんと思うておるんじゃ。

わしや信長様は、確かに戦は上手い、そしてお主は頭が良い。

しかし、家康殿はわしらにはないものを持っておる。

それはの、辛抱強さじゃ。

これから少なくとも二百年や三百年、出来れば永遠の太平の世を作る為には、何よりも辛抱強さが必要じゃ。

その為には、あの執拗なまでの辛抱強さを持った家康殿が適任じゃ。

なぁに、実は家康殿にはすでにこの策を伝えておる。

わしの首と、お主の頭の良さ、そして家康殿の辛抱強さがあれば、わしらの目指す天下が手に入るじゃろう。

そして、わしらの親である信長様にはゆっくりと余生を過ごしてもらおう。

子が親の安息を望むのは当然の事じゃろうて。

わしはあの方に死んで欲しゅうない。

何じゃ光秀。

それは無理じゃ。

首を刎ねられる役はわしじゃ。

わしはお主と違うて頭が良うないゆえ、死ぬる事でしか天下の力になれん。

無理じゃて、それは無理じゃて。

嫌じゃ。

わしはお飾りなんぞ真っ平御免被る。

わしは今までに飢えて死んでいった百姓や、戦で死んでいったあやつらと共に、泰平の世の礎となる。

わしは、わしの首と引き換えに、希代の裏切り者としてあの世で天下人となるんじゃ。

誰の腹も減らん、泰平の世を作るのじゃ。

わしは馬鹿じゃゆえ、お主には申し訳ござらんが簡単な道を選ばして貰う。

難しい道は、お主が歩んで下され。

すまんな、光秀殿。

そんな、天下泰平三百年の礎の話。