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森猛 伊亮

森猛 伊亮
中学校卒業後、不動産屋や大工、果ては証券屋やボーイなど様々な経験をつみながら、デンジャラスかつクレイジーな生活を経て、2013年より独立。

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酢豚は念仏の話

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私は現在三十三歳。

 

プリプリの若さはほとんど無くなってきており、かといって大人の色気というヤツはまだまだ出てくる気配すらない。

 

なんとも中途半端なお年頃であるが、そのくせ近頃では枕からおじさんの匂いがする。

 

ちょっと泣きそうである。

 

 

 

さて、そんな若者以上中年未満の私であるが、つい先ほど長年疑問に思っていた、我が人生最大のミステリーが解明された。

 

いや、おそらくそんなに小さな話ではない。

 

私が試算した所によると、全人類の内おそらく二十五億人くらいにとっての謎、ミステリーが解明される事になる。

 

因みに解明したのは私であり、この事実はまだ誰にも言っていない。

 

多分、今夜のニュースは大騒ぎである。

 

なんたって、世界三大ミステリーの一つが完全に解明されたのである。

 

世界初公開。

 

是非、聞いて頂きたい。

 

 

 

まず、皆さんご存知の世界三大ミステリーとは何かと言うと、『ナスカの地上絵』に『イースター島のモアイ像』

 

そして、残る一つはもちろんそう。

 

 

 

『晩飯の酢豚』である。

 

 

 

『なぜ晩飯に酢豚が出てくるのか』

 

これはもう、人類最大のミステリーと言っても過言ではない。

 

もちろん、ミステリーとは感じないという方もいらっしゃるのは重々承知している。

 

異論は認める。

 

しかし、世の中には三種類の人間がいる。

 

晩飯の酢豚にミステリーを感じる人間に、感じない人間、そして『酢豚を知らない人間』である。

 

現在、地球の人口は七十五億人であるので、三等分に分けると二十五億人。

 

ということは、少なくとも二十五億人にとっては由々しきミステリーなのである。

 

 

 

そもそも、上記に示したナスカの地上絵などのミステリーと比べても、この『晩飯の酢豚』の意味不明さは群を抜いている。

 

理由は大きく分けて二つ。

 

まず、『おかず』という立場にありながら、その甘酸っぱい味付けにより、ご飯、すなわち白飯と合う事は絶対に無い。

 

絶対に無い。

 

『甘酸っぱい』がご飯と合うのであれば、ミカンやイチゴだっておかずになるはずである。

 

だがしかし、私はイチゴをおかずに白飯を食っているヤツを見た事がない。

 

一回もない。

 

ご飯に合わないおかずなど存在意義に悖る。

 

物凄ぇ場違い感であり、例えば水戸黄門の印籠に、葵の紋ではなくキティちゃんが描いてあるくらいの違和感である。

 

 

 

そして第二の理由。

 

そう。

 

この酢豚という料理はなんと、、、

 

 

 

パイナップルを入れたりする。

 

 

 

皆さん勘違いしないで頂きたい。

 

私は、酢豚にパイナップルは是か非かという話をしているのでは全くない。

 

全然違う。

 

『パイナップルを入れる』という選択肢がある事自体の話をしているのである。

 

『パイナップルを入れる』という選択肢があるものは、本来晩飯に出してはいけないはずである。

 

世界には二種類の食べ物がある。

 

パイナップルを入れて良い食べ物と、いけない食べ物である。

 

良い食べ物とは、ケーキであったりあんみつであったりする。

 

いけない食べ物は、肉じゃがとかである。

 

初めて行った食堂で、肉じゃがにパイナップルが入っていたら、それはもう店員にバックドロップをかます。

 

そして、食事中に肉じゃがを食っても問題はないが、ケーキを食ってたらばぁちゃんにバックドロップをかまされるのである。

 

という事は、『パイナップルを入れる物』を晩飯に出すというのは、ばぁちゃんに怒られるくらい倫理的問題を有するのである。

 

大罪である。

 

 

 

とまぁ、上記の二点から鑑みても、晩飯に酢豚が出てくるというのは不可思議である。

 

たが、古来より酢豚は食卓に並ぶのである。

 

何故か。

 

その謎を紐解いたのは、私の幼少期の記憶であった。

 

 

 

私が小学校一年生の頃、曽祖母、つまりひいばぁちゃんが亡くなった。

 

私はひいばぁちゃんが大好きだったので、それはそれは泣きじゃくった。

 

通夜や葬式を行なっている時など、自分でもおかしくなったんじゃないかと思うくらいに泣き、止めどなく涙が流れた。

 

ごめん。

書いてるだけで、ちょっと思い出して泣けてきた。

 

で、気が狂ったかのように泣いていた私を周りの大人達はみんな慰めてくれたのだが、私は経験したことのない感情と涙でパニックに陥っていたので、大人達の慰めをてんで受け付けなかった。

 

しかし、葬式を終える頃、ひいばぁちゃんに念仏を唱えてくれた尼さんが、次の様に私を優しくたしなめてくれた。

 

尼さん『伊亮くん。悲しい時にいっぱい泣くのは別にかまわへんけど、あんまり泣いてたらおばあちゃん天国に行かれへんよ』

 

私『なんでなん?良い人は天国行けるんやろ?ばぁちゃん良い人やったから天国行きやん』

 

尼さん『そや。おばぁちゃんは良い人やったからホンマは天国行きや。けど、伊亮くんが泣いてたらおばぁちゃん心配して天国行かれへんし、ノロノロしてたら道に迷って天国の行き方わからんくなるわ』

 

私『そんなん嫌や』

 

尼さん『わかった。ほな心配させんように泣き止んで。おばぁちゃんに手合わせて一緒にお念仏唱えよか』

 

私『わかった』

 

みたいな会話をした。

 

 

 

そしてこの尼さんは、一緒に念仏を唱えた後『よお頑張ったな。これでおばあちゃん天国行きや』と言ってくれた。

 

私は感無量であった。

 

その後、私はこの尼さんに色々な事を聞いた。

 

天国はどんな所かとか、そういう話を聞いたと思う。

 

そしてその時、私はぽろっとこんな事を言った。

 

『ばあちゃんは良い人やったけど、僕あんまり良い人やないから多分地獄行きかな』と。

 

すると尼さんは。

 

『もちろん良い子にならなあかんけど、人間は悪い事もする。絶対にする。せやけどな、悪い事してもちゃんと反省しながら、さっきのお念仏唱えたら天国行けるようになってんねん』と言った。

 

そして、その言葉を受けた私は言った。

 

 

 

『念仏最強やん!』と。

 

 

 

この尼さんが、どういう意図で教えを説いたかは分からんが、幼き私はこの時『念仏はどんなに悪い事をしてもチャラになる免罪符』であると認識した。

 

アホである。

 

その後の記憶は余り定かではないが、そう思った記憶は確かにある。

 

 

 

さぁ話を戻そう。

 

私は現在三十三歳。

 

まさか小学一年生の時よりアホではないが、その後、身から出たサビのせいで神も仏も無い人生を送るハメになり、ばあちゃんに手を合わせる事はあっても念仏は唱えていないので多分地獄行きである。

 

だがしかし、悪い事はしていない。

 

小学一年生の時とは違い、三十三歳は立ちションとかはしないし、朝もちゃんと起きる。

 

という事は、悪い事をしていないので天国行きのはずである。

 

これは良かった、、、

 

 

 

いや待てよ。

 

してる。

めっちゃしている。

 

滅茶苦茶悪い事をしている。

 

三十の声を聞いてから、徐々に腹が出てきた今日この頃。

 

毎年健康診断に行く病院の主治医にも、ちょっと痩せろと勧告された。

 

しかし私は、身からボロボロ出たサビのせいで食えない時期が長かったので、多少の余裕が出て来た最近では、好きな物を好きなだけ食う。

 

餃子と唐揚げとラーメンとかを食う。

 

滅茶苦茶悪い。

 

そんな折、先ほど中華料理屋で唐揚げの代わりに『酢豚』を注文した。

 

なにゆえか。

 

 

 

まず、古来より『酢』は体に良いとされてきた。

 

曰く、身体が柔らかくなるとか、疲労回復に良いとか。

 

みのもんたも言っていた。

 

更に『豚』には豊富なビタミンBが含まれているらしい。

 

ビタミンBが身体の何に良いのかは知らんが、NHKが言っていたので多分身体に良いのだろう。

 

その二つが組み合わさる。

 

最強である。

 

そして、その最強の二つに、玉ねぎ、ピーマン、人参が加わるのである。

 

玉ねぎは血液をサラサラにするらしいし、ピーマンと人参は子供の嫌いな食べ物なので、多分身体に良いのであろう。

 

少なくとも、得体の知れない原色の駄菓子よりは身体に良かろう。

 

最強の二人に、それを支える名脇役達。

 

ほとんど王・長嶋時代のジャイアンツである。

 

正に最強。

 

底抜けに身体に良いはずである。

 

ここまで書けばもうお察しであろう。

 

『酢豚』とは、決しておかずとしてそこに存在している訳では無い。

 

 

 

中性脂肪は気になる。

 

しかし、中華は食いたい。

餃子もラーメンも食いたい。

 

だがしかし、それだけだと何となく身体に悪そうな気がする。

 

そんな時、私達は『酢豚』を一緒に食えば良いのである。

 

最高に身体に良いのだから、ちょっとくらい身体に悪そうな物を食べてもチャラになるはずなのである。

 

悪い事をしてもチャラ。

 

そう。

 

酢豚は、決しておかずなどではない。

 

 

 

酢豚は念仏なのである。

 

食べるタイプの念仏なのである。

 

人類の謎は、今解けた。

 

 

 

さて、ここで皆様にお願いがある。

 

この稿を最後まで読まれた皆様の明日の晩飯は、おそらく酢豚になる。

 

ほとんどなる。

 

そして、その酢豚を食べる時、あなたがお一人様であれば何の問題も無い。

 

どうか美味しい酢豚を食べて欲しい。

 

しかし、あなたが二人以上で食事をする時、それは中華料理屋で注文する時かも知れないし、家で酢豚を作っている時かも知れない。

 

そんな時、もしあなたの周りに嫌な顔をしたり、『酢豚はちょっと』などと言う人がいたら、その人の耳元でそっと優しく言ってあげて欲しい。

 

『酢豚は念仏なんだよ』と。

 

それによって、二十五億分の一の苦悩は解放されるはずである。

 

そして、余裕があればこうも付け加えて欲しい。

 

『杜仲茶は飲むタイプの念仏で、岩盤浴は入るタイプの念仏なんだよ』と。

 

 

 

そんな、食わず嫌いを食べてみたらめちゃくちゃ美味かった話。