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森猛 伊亮

森猛 伊亮
中学校卒業後、不動産屋や大工、果ては証券屋やボーイなど様々な経験をつみながら、デンジャラスかつクレイジーな生活を経て、2013年より独立。

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紙飛行機の話

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怒涛の十連休が終わった。

 

この十連休の間、私は全国各地のショッピングモールなどで販売の仕事をしていたのだが、どこもかしこも物凄い人出であった。

 

今年に関して言うと、どこの店でも『平成さよならセール』や『令和こんにちはセール』などと銘打ち、殆どお祭り状態であったので例年のゴールデンウィークよりも沢山の商品が売れた。

 

五月五日を除いては。

 

この度の十連休中は、どちらかというとご年配の女性向け商品を発売していたのだが、五月五日は子供の日であり、世のおばあちゃん達は孫とお出掛けしているので、私の売り場はこの日だけは物凄く静かであった。

 

私は物凄ぇ暇であったが、ショッピングモール内は子供の日イベントを開催しており、親子連れの人で大混雑であった。

 

北関東にあるこのショッピングモールは、広大な敷地面積を擁しており、子供の日イベントも盛大に行われていた。

 

子供達は突如出現した巨大なアスレチックで遊んだり、消防車にパトカー、果てはごみ収集車などが集まる『働く車展』で体験乗車をしたりと大変楽しそうであった。

 

あんまりにも楽しそうであり、子供の頃の夢はごみ収集車に乗るおじさんであった私は、仕事の休憩時間に参加条件である三千円以上のレシートをたずさえ、ごみ収集車の前の行列に並んだ。

 

ワクワクしながら10分程並んで列の先頭まで来た私は、係の人にレシートを見せると『お子様はどちらですか?』と聞かれた。

 

『私一人です』と答えると、不思議そうに見られた後『すみません。こちらの体験はお子様だけになります』と冷静に言われた。

 

痛恨のミスであった。

 

体験乗車の看板には、小さい文字で『こちらの体験乗車はお子様限定で、保護者の方はご乗車出来ません』と注意書きが記されていた。

 

保護者どころか、ウキウキとおっさん単騎で並んでいた私は、周りから見ると変なおじさんであったと思う。

 

立ち去る際、全力でテレ笑いを浮かべてはいたが、私は欲しくも無いネクタイとレシートを握り締めながら三十年来の夢を打ち砕かれ、ちょっと泣きそうであった。

 

休憩時間もじき終わるので、失意の私はしょんぼりと仕事に戻ろうとしたのだが、戻る途中に『紙飛行機競争』というブースが目に入った。

 

好きな形の紙飛行機を作って、どれだけの飛距離を伸ばせるかを競うものらしい。

 

私は手先が恐ろしく不器用で折り紙というものを折った試しがないし、先ほど物凄く恥ずかしい思いをしていたのでまさか参加しようとは考えなかったが、そのブースから仕事場へ戻る途中、驚愕の過去を思い出した。

 

 

 

遡る事三十年程昔。

 

私は保育園に通う幼児であった。

 

今では変なおじさんとなった私だが、当時の私は、それはそれは変な子供であった。

 

自分自身で振り返っても、さっぱり理解不能な行動をする幼児であったので、この時期育ててくれた祖母や周りの大人はさぞかし手を焼いたと思う。

 

例えば、誕生日に祖母から遊園地でも水族館でも伊亮の好きな所へ連れてってあげるけどどこが良いと尋ねられ、私は迷わず『銀行!』と即答して祖母を困らせた。

 

全くもって意味不明である。

 

困惑した祖母だが可愛い孫の為に、信用金庫へ勤める親類にお願いをしてくれた結果、9時から15時までの営業時間内、邪魔にならぬ様、静かで良い子にしている事を条件に、私は待合い席で座っている事を許された。

 

今考えると何が楽しいのかわからんが、当時の私はその時間がめちゃくちゃ楽しかったので、祖母との約束を破り追い出されては困ると思い、昼食の時間を除いてはとても静かに良い子で待合い席に座っていた。

 

本人としては必死になって静かにしていたのであろうが、職員さんからするとどれだけ静かにしていようが相当に邪魔であったと思う。

 

その他にも、見知らぬおっちゃんと仲良くなり、祖母に無断で二人で海へと出掛ける。

 

更には、何度も転んで顔が擦り傷だらけになっても、急な坂道を一人でただひたすらにダッシュで降るという謎の遊びを必ず毎週敢行するなど、中々クレージーな幼児であった。

 

そんな理解不能の幼児であった私はある時、保育園のクラスで件の紙飛行機競争の様な事をした。

 

新聞紙を正方形に切り、先生が作り方を教えてくれる色々な形の紙飛行機の折り方の中から、各自が好きな形を選んで大きな紙飛行機を作ってどこまで飛ばせるか競争しようという授業である。

 

先生は五種類くらいの紙飛行機の折り方を教えてくれ、私以外のクラスのみんなは各自好きな形を選び、一生懸命に紙飛行機を折っていた。

 

その後一人一人が紙飛行機を飛ばしていき、飛んだの飛んで無いのと盛り上がっていたが、最終投者の私の番になった時事件は起きた。

 

1位の金メダルがどうしても欲しかった私は紙飛行機を折らず、カチカチに丸めた新聞紙を全力で投げた。

 

結果、、、

 

 

ぶっちぎりの1位であった。

2位の紙飛行機の三倍は飛んでいた。

 

 

教室内は騒然とした。

 

飛んだ距離を競うのでセーフという擁護派と、飛行機じゃないからアウトという否定派が真っ二つに割れ、自民党と共産党ぐらい紛糾した。

 

1位を確信していた2位の子などは泣き出す始末で、教室は阿鼻叫喚の地獄絵図であった。

 

結局、その場を収める為、参加者全員にメダルの作り方を教えてくれた先生は、めちゃくちゃかわいそうであるが、めちゃくちゃ偉い。

ガンジーくらい偉い。

 

しかも、この先生はその後こっそりと私を呼び出し、

『一番になる為に何をしても良いのでは無く、ルールを守らないと何の意味も無いし、そんなのは最下位より下よ』

とクレージー園児を優しく諭してくれた。

 

多分マザーテレサくらい偉い人だと思う。

 

この先生とは大人になってから何度かお会いする機会があったのだが、しっかりとこの時の事は覚えていらっしゃった。

汗顔の至りである。

 

尚、マザーテレサの優しい嘘の可能性は否定出来ないが、この先生は二十年越しにあの授業の秘密を教えてくれた。

 

実は毎年同じ事をする奴が一人や二人いて、その度にメダルの作り方を全員に教え、新聞紙を丸めた奴にズルはいけない事だと諭すのだそうだ。

 

本当でも嘘でも、やはり彼女はマザーテレサくらい優しい人だと思った。

 

 

 

さて、最近以前にも増してやたらと企業の不正ニュースが多い気がする。

 

入居者が居なくても家賃保証すると持ちかけ、全然入居者の入らぬシェアハウスを建てたまくった後にトンズラした建築屋。

それを知りながら過剰な建築代を融資した、地方銀行の雄といわれた銀行。

 

アルミやゴムの強度データを改ざんした製鉄会社や素材会社。

 

果ては、命に関わるマンションの耐火偽装までも平気で行う企業すら出てくる始末である。

 

どれもこれも利益を追求し、新聞紙を丸めた結果に他ならない。

 

企業として利益を追求し、一番を目指す事は健全な姿である。

 

しかし、その為にズルをすることはいけないということは幼児だって知っている。

 

ましてや名だたる大企業の幹部が雁首そろえて幼児より馬鹿な訳がない。

 

メイドインジャパンの品質が疑われるとかそんな大それた事は言うつもりはないし、私自身その様な大きな仕事をしている訳では無いのでそんな事を言う資格はない。

 

しかし、願わくば彼女が生涯をかけて子供達に示した『ルールを守らないのは、最下位より下』という美しい教えは、決して嘘にはして欲しくないと思う。

 

そんな当たり前の話。