ここで会ったが木曜日

木曜日は『木曜日の話』月曜日は『月曜日の辞書』

森猛 伊亮

森猛 伊亮
中学校卒業後、不動産屋や大工、果ては証券屋やボーイなど様々な経験をつみながら、デンジャラスかつクレイジーな生活を経て、2013年より独立。

詳しいプロフィールはこちら

K-1と百ワニと鯨と僕と時々犬の話

f:id:kokomokumoritake:20200402123258j:plain
 
 
過日、何気なくスマホでニュースを見ていたら、私の頭の中にいる正義的な部署を担当する小さい伊亮達がザワザワし始めた。
 
私は基本的に悪いヤツなので、恐らくこの部署の担当者数は普通の人と比べると極端に少ないのだが、珍しくザワザワした後にいきなり二課の課長が怒り始めた。
 
以下二課長。
 
 
 
アホなの?ねぇアホなの?
 
今やったら絶対あかやん?
 
格闘技イベントとか絶対やったらあかやん?
 
何なん自己責任て?
 
あれ?
 
イベント終わってから、参加者全員二週間自宅待機出来るって事?
 
参加者がコロちゃん持ち帰って、近所の人にお裾分けしたら近所の人の分まで責任取るの?
 
そこからパンちゃんとこのデミックさんが来て、日本中にお裾分けしてもちゃんと責任取れる?
 
生活があるのは分かるけど、そんな事して良いと本気で思ってる?
 
普通に考えたら分かるよね?
 
アホなの?ねぇアホなの?
 
 
 
二課長激おこである。
 
 
 
で、私は。
 
あーあ、K1のヤロウやっちまったな、大人しくしとったら怒られへんのに。
 
まぁでも、そりゃ怒られるよな。
 
そりゃ怒られる。
 
俺は暫く大人しくしとこー。
 
 
とか思いつつ、二課長から目を逸らせ、精一杯気配を消していたのだが、居た場所が悪かった。
 
物凄ぇ悪かった。
 
思いっきり、とばっちりが来た。
 
 
 
アホなの?ねぇアホなの?
 
今、K1くんに怒ってたの聞いてたよね?
 
人が集まるとこに行くなっつってんの。
 
生活があるのは分かるけど、コロちゃん貰ったらどうするの?
 
義母のババ様もう七十超えてるよ?
 
何かあったらどうするの?
 
ていうか、取引先とかに迷惑掛けたら責任取れるの?
 
君からパンちゃんとこのデミックさん始まるかも知らんのよ?
 
満員電車乗るとかナメてるの?
 
アホなの?ねぇアホなの?
 
 
 
そう。
 
この時私がスマホでニュースを見ていたのは、出張先の富山からその先の出張先である茨城へ移動中の電車の中であった。
 
上野で新幹線から在来線へ乗り換えのだが、思いっきり帰宅ラッシュとかち合った。
 
ギュウギュウ詰めの満員電車。
 
座る私の前に立つおじさんは、コンコンと咳をしている。
 
 
二課長激おこ。
 
 
テメェの食い扶持を稼ぐ為に、他人様に迷惑掛ける可能性を考慮しないとは何事かと、激おこ。
 
私とK1くんは、二時間ほど説教を受けた。
 
 
 
 
で、その後ホテル到着し、風呂に入り明日の準備やらを整えてからベッドに入ってスマホでニュースを見ていたら、又しても例の部署がザワついた。
 
 
そして、今度は三課の課長が怒っている。
 
 
三課とは〝私の頭の中の正義的部〟の中でも、割とトリッキーな案件を取り扱っている課である。
 
取り扱い案件は〝悪〟ではなく〝悪〟とされている物に振りかざされる〝正〟である。
 
例えば不倫をした芸能人ではなくて、不倫をした芸能人を叩く人などを取り扱っている。
 
もちろん二課とは犬猿の仲である。
 
 
 
で、その三課の課長が怒っている。
 
物凄ぇ剣幕で怒っている。
 
お前らそこに並べぇぇー!つって、いきなり全員にビンタをかまして説教をタレた始めた。
 
 
 
お前らなんや!
 
『100日後に死ぬワニ』を商業化して何が悪いねん!
 
お前らタダで読んでおいて何を文句言う事があるねん!
 
なんや〝死〟を商業化するのは良く無いって!
 
ほなあれか!?
 
タイタニックで、ジャック沈めるなって事か!?
 
それともタイタニックグッズを作るなって事か!?
 
て言うか、そもそもタイタニックは実話やから映画化するなって事か!?
 
お前らバカか!?
 
じゃあ東野圭吾は仕事するなって事か!?
 
コナン君は打ち切りか!?
 
人の商売にケチつけてる暇あったら働け!
 
歯ぁ食いしばれ!
 
 
 
三課長鬼おこである。
 
 
 
で、鉄拳制裁をかます三課長を横目に私は。
 
 
あーあ、アンチワニ商業化のヤロウ達やっちまったな。
 
まぁでも、そりゃ怒られるよな。
 
自分達が金出した訳でもないのに人の商売にケチつけてたら、そりゃ怒られる。
 
AIひばりの時も怒られてたのに、あいつらこりてないなぁー。
 
まぁ、俺は関係無いけど。
 
 
と、私は缶コーヒーを飲みながらタバコをふかした。
 
私は三課とは、割とズブズブの関係にある。
 
 
三課長ともたまに飲みに行ったりする。
 
 
なので、今度は先程と違ってとばっちりはあるまい。
 
と、たかをくくってタバコの火を消して寝ようとしたら、三課長の怒号が私に飛んで来た。
 
ブッ飛んで来た。
 
 
 
 
お前もやー!
 
そこに立てぇぇー!
 
お前今『自分は関係無いっす』って思ってたやろ!
 
一緒じゃぁぁー!
 
この前、数百万もする〝ペットの葬式〟の特集見て『これは無いわー。』とか言ってたやろ!
 
根本的には一緒やぞ!
 
なに納得いってない顔してんねん!?
 
現実と作品とは違う?
 
そういう屁理屈はええねん!
 
お前が愛犬家とかも関係無いねん!
 
そんなん言い始めたらアイツら愛鰐家や!
 
その納得いってない顔、ワニのヤツらもしとったわ!
 
その不満顔こそがワニのヤツらと同類の証拠じゃぁぁー!
 
 
と、火の出る様なビンタをかまされた。
 
私は全然納得せず膨れっ面を決め込んだが、〝アンチ100日後に死ぬワニ商業化〟の顔を見たら多分同じ顔をしていると思うので、まぁそういう事であろうと思う。
 
 
 
 
そして昨日。
 
つい昨日。
 
この前はなんかあれやったなー〝正義的部〟忙しかったなー、とか思いながら昼飯を食べる為に定食屋に入った。
 
その定食屋にはテレビがあり、画面にはニュース番組が映し出されている。
 
で、私は食事をしながら何となくそのニュース番組を見ていた。
 
 
 
じゃあ、もういきなり。
 
いきなり一課の課長が出てきた。
 
ザワザワする間も無く、いきなり〝正義的部〟の花形課である、一課の課長が出てきた。
 
すると一課長は、ニュース番組を映し出すテレビ画面に向かって、静かに、それでいてハッキリと話し始めた。
 
 
 
 
あのですね。
 
おかしいですよね。
 
ウィルスがどうとかじゃなくて、そもそもおかしいですよね。
 
 
コウモリは食べちゃいけないですよね。
 
 
しかもなんですか。
 
犬まで食べるんですか。
 
犬はダメですよ。
 
いや猫も勿論ダメなんですけどね。
 
犬を食べるとかもうあれですよ。
 
うちには〝おもち君〟という変テコリンな名前の愛犬がいるんですけどね。
 
あんなモフモフした可愛らしい生き物をね。
 
食べるなんて言うのはね。
 
鬼の所業ですよ?
 
絶対ダメですよね。
 
絶対食べちゃダメですよね。
 
今回の事が本当にコウモリが原因かどうかは分かりませんが。
 
辞めませんか。
 
色々食べるの。
 
 
と、一課長が静かに怒るのを聞きながら、私は冷や汗をかいた。
 
ダラダラとかいた。
 
 
 
とんかつ食ってるからね。
 
こっちは、とんかつを食いながらニュースを見ているからね。
 
 
 
しかも。
 
しかもである。
 
私は『食べてくれるな!』と、どこかの国が泣いて止めていた鯨ですら、好物の部類に入っている人間である。
 
冬になると『はぁ、うめぇはりはり鍋が食いてぇな』とか言っている人間である。
 
 
ゆっくり振り返ると一課長と目が合った。
 
目が合うなり、彼は一言。
 
『何が言いたいのか分かりますよね?』と言った。
 
私はブンブンと、首を縦に振った。
 
 
 
 
 
その後。
 
冷や汗はかいたがお腹も満たされ、私は食い扶持を稼ぐ為に仕事に戻った。
 
で、いつも通りに私が仕事に励んでいる間に一、二、三課長は合同で『K-1案件』『百ワニ案件』『コウモリ案件』という一連の案件を部長に報告したらい。
 
仕事が終わり、ホテルに到着してのんびりとしていたら、私は部長室に呼び出された。
 
 
呼び出しの声から察するに、多分部長は鬼おこ、いや、もはや神おこである。
 
 
私は、部長室に入るなり直立不動のキヲツケをした。
 
部長は足を組んで椅子に座っており、机の上にある既に読み終えたはずの各課からの報告書を、鬼の様な顔でペラペラとめくって確認していた。
 
そして部長は確認が終わるや否や、仁王立ちになり私に向かって。
 
 
 
『お前が言うなぁぁー!』
 
 
 
と、一喝した。
 
 
ごもっともである。
 
ディスイズごもっともである。
 
絶望的な位にごもっともである。
 
 
 
 
とは言え、何となく釈然としない感じもする。
 
私が全面的に悪いとも思えない。
 
同僚と飲みに行って『聞いて聞いてー、部長がさぁー』と愚痴の一つもこぼしたい気分である。
 
で、同僚から『それはお前が悪いな』とか言われたりして、『わかってるー、それはわかってるー』とか、膨れっ面で答えたい気分である。
 
しかしいくら膨れっ面になったとて、ごもっともである事は変わらない。
 
 
テメェは良くて人はダメというのは、どう考えたっておかしな話である。
 
 
そりゃそうである。
 
なので私は、ばぁちゃんより授かりし『よそはよそ、ウチはウチ』の精神を胸に掲げ、これからも〝頭の中の正義的部〟の運営に努めようと思う。
 
そうしようと思う。
 
 
 
犬を食べるのはどうかと思うが。
 
犬を食べるのはどうかと思うが。
 
 
そんな、矛と盾の話。