
この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは全く関係ないので、当サイトをぶっ壊したりしないでね。
てへぺろ。
ここは地球から遠く離れた惑星のジャピーンという国。
この国には、ジャピーン放送協会、通称JHKという公共放送局がある。
決して国営放送局ではない。
あくまでも、公共放送局である。
〝公共放送局〟とは、放送内容に政府や企業が介入出来ぬよう、税金やスポンサー料ではなく、国民の受信料で運営される放送局の事である。
『いや、経営委員やら予算やらは国会の承認がいるんやから結局国が介入し放題やん』
という国民の声はあるが、ともかくこのJHKは〝公共放送局〟であるので、JHK税を徴収したり、スポンサーを獲得することなく国民から受信料を徴収することにより運営されている。
だがしかし。
JHKの受信料の支払い率は低い。
本来一部の例外を除き、テレビ等を所有している家庭は必ず受信料を支払わなければいけない事が法律決まっているのだが、支払い義務のある家庭のうち、二割から三割くらいが毎年受信料を支払わない。
そこで、五年前にオオッサカー支局からJHK本社に赴任してきて現在は受信料徴収課の課長である森竹は、受信料支払い率のアップのために壮大な計画を企てた。
そして今日、彼はその壮大な計画を実行する為にキーパーソンとなるある男をJHK本社の極秘会議室に呼び出していた。
尚、彼がなぜオオッサカー支局から来たかというと、これを書いている人が広島在住の関西出身者であり、標準語に変換するのが面倒くさいから。というのは内緒である。
やぁ座花(スワリバナ)くん。
久しぶりやね。
まぁ座り。
座花くんだけに。
違うか!?
さて、今日君を呼び出したのは他でもない。
俺がこっちに着任してから五年になるけど、思うように受信料の支払い率が上がらんのや。
不払い理由を独自に調べたら〝JHKの番組を観ないから〟というのが一番多い理由やったんやけど本音ではあるまい。
現に〝プロジェクトY〟の後継である〝プロフェッショナル〜仕事の作法〟なんかのドキュメントは、民放とは比べものならないくらいのクオリティで視聴者に愛されてる。
バラエティでは〝ティコちゃんに怒られろ〟が好調やし、ドラマは朝ドラの好調に加えて再放送の〝おちん〟なんか泣きながらみんな観てるで。
ていうか、災害時にはまずみんなJHKを点けるし、子供がいる家庭はほぼ100%教育チャンネルのイイーテレを観ている。
あれだけ観ない観ないと言っている〝あかしろ歌大会〟でも裏番組の〝笑うしかない24時〟の合間に自分の好きなアーティストが出る時はちゃっかりみんな観ている。
みんなJHKを観てんねん。
にも関わらず受信料不払いは無くならへん。
なんでかわかるか座花くん。
そう。
確かにこの国の貧富の差が拡大して、貧困層には月々2230ウェンの受信料が多大な負担になっていることも一つの要因やろう。
けどな座花くん。
払ってないのは貧困層だけちゃうねん。
中流から上の家庭でも結構払ってないねん。
JHKを観ていて、更に支払えない訳ではないけど払わへん。
俺はめっちゃ悲しいわ。
俺達が必死になって番組を作っても、たくさんの視聴者が受信料を支払わへん事に俺は涙が出るほど悲しいわ、座花くん。
なんでこんな事になるんか理由は明白。
視聴者は、繰り返されるJHKの色んな不祥事に嫌気がさしているんや。
『俺達から強制的に取った受信料で生活しているクセに何しょーもないことしてるんだよ!』と怒っているんや。
つまり、俺達がどれだけ良い番組を作っても、このビルの上の方の階で踏ん反り返っているジジィ達のせいで視聴者は受信料を払わへんねん。
座花くん。
俺には視聴者の気持ちがよーわかる。
俺だっていち視聴者の立場としてみれば、これだけ色々な事があったら払いたくなくなると思う。
けど、だからと言ってこの状態を放置しておく訳にはいかへんわな。
受信料を徴収せんと公共放送は成立せーへんから。
この五年、俺は色んな事をやってきたよ。
徴収業務の外部委託を強化したり、受信料未納者に裁判を起こしたり。
けど、支払い率はいまいち改善されてへん。
そこでや。
俺とごく一部の経営陣、更には総務省の偉い役人達で企てた極秘の受信料徴収作戦を遂行しようと思っている。
そこで、その作戦を遂行するにあたり俺達は君のJHK愛、そして、そのブッ飛んだ行動力を必要としている。
その作戦の名は〝JHKをブッ潰す大作戦〟という。
わかる。
君が言いたいことはよーわかる。
君が愛するJHKをぶっ潰すなんて事は出来ひんて言いたいんやろ?
大丈夫。
本当に潰す訳じゃない。
潰すフリをするんや。
JHK愛溢れる君にはツライ作戦かも知らんが理解して欲しい。
すまんな、ありがとう。
じゃあ、早速やけど作戦の概要を説明する。
因みに、この作戦は三段階に分かれる。
まず第一段階として君は、動画投稿サイト〝ウーチューブ〟にチャンネルを開設して、JHK内のありとあらゆる負の部分を世間に晒し続けるんや。
出来るだけハデに、出来るだけわかり易くJHKを糾弾する。
可能な限り過激な方がええ。
ちょっとした事でも出来るだけ大袈裟に糾弾して、いかにJHKの内部が腐っているかを世に晒し続けるんや。
何も本当にあったことだけでなくともいいよ。
ある事ない事とにかく過激に糾弾し続けるんや。
そして、出来るだけたくさんのアンチJHK層を作り出し、きみはアンチ達のヒーローになる。
何も難しい事はない。
少なからずJHKに不満を持っている視聴者は沢山いるからな。
狙いは二つ。
一つは第二段階以降への布石でこれはまた後で話す。
問題は二つ目。
これが重要や。
君も知っていると思うが例のあの件。
あれは大変なスキャンダルや。
あれが明るみに出ればいかに必要悪とはいえJHKはブッ飛ぶ。
それどころか、現政権だって破綻してもおかしくない。
そこで、君が小さなスキャンダルを糾弾している間にあの件を静かぁに処理する。
他局ですまんが〝ルペン3世〟がよくやるあれや。
違うところで事件を起こし、そちらに注意を引き付けている間にお宝を盗み出すあれ。
あれの原理を使う。
処理までにかかる時間はおよそ半年。
それまで君は、どうでも良いJHKの負の部分を糾弾しまくってくれ。
そして作戦の第二段階。
きみは、第一段階でたくさん集めたアンチJHKの支持者を基盤にして〝J國党〟という政治政党を結成する。
ん?
その前に何故そうまでしてアンチを集めるかって?
それは君、決まってるやないか。
きみをリーダーとしたアンチ集団は、『JHKをぶっ潰す!』と連呼し、『JHKは不用だ!』と糾弾する。
すると、それを見た人間は考える。
『本当にJHKは不用か?』と。
普段は何となくチャンネルを合わせるだけで〝番組を観ている〟と深く意識していない人々も、良く考えたらJHKを視聴している事に気づく。
そうするとJHKの必要性を感じていき、引いては受信料を払うことに繋がる。
更に、いくらアンチを集めても大声で君の運動に参加するのはごく一部。
座花くん。
人間というのはね。
マイノリティ、つまり少数派にはなりたがらないんだよ本能的に。
本来払わなければいけない受信料を、一部の人間達が薄っぺらな理念を盾に大声を上げて支払わない。
更にはよくわからん〝JHK撃退シール〟みたいなものを玄関に貼らせたりする。
すると、それを見た人間達はこう思う。
ああはなりたくないと。
受信料を支払ってないという負い目があるからな。
いくらJHKに不祥事が多いからというて、受信料の支払いは法律によって決まっている訳で、それを支払わない理由には本来ならへん。
その事に気づくんや。
話を戻そう。
君はそのアンチ達を束ねて国政選挙に出馬する。
そして、間違いなく当選する。
現行の選挙制度では、全国で100万票くらいの得票があれば余裕で当選する。
これは相当ハードルが低い。
極端な話、100万人の登録者がいる〝ウーチューバー〟が『投票してねー』と呼びかけると国家議員になれるくらい低い。
更に、きみは〝巨悪JHK〟に立ち向かうヒーロー。
いわばドンキホーテや。
アンチ層の正義感を背景に君は国会議員となり、本格的にJHKをぶっ潰す準備を進めていくようにみせる。
まぁ最悪得票が足らんでも、例のあのスキャンダルに絡んでる先生方が下駄履かしてくれるから大丈夫や。
そして、ここからが最終段階。
総仕上げに取り掛かる。
J國党の党首としてアンチ層の期待を一心に受けて国会議員となった君は、正義の名の元にここから意味不明の行動を繰り返す。
J國党の批判をしたタレントに噛みつき、出演番組のスポンサーの不買運動を起こそうとしたりする。
更に元党員と揉めたり、国会議員の席を他の人間に任せて自分は地方の知事選に出たりと、ともかく無茶苦茶な行動を取る。
すると、今度はきみ自身が世論から叩かれる。
『そんな事させる為に投票したんじゃないぞー!』ってな。
こうなると、我々の勝ち。
人間とは不思議なもので、敵の敵は味方に見えるんや。
なんかよくわからん無茶苦茶な集団がいる。
そして、その集団はなんかよくわからんが、幼い頃から慣れ親しんだJHKを潰そうと騒いでいる。
JHKを守らねば。
いや、せめて受信料くらいは払わなければ。
となる。
これが、この作戦の全貌や。
君にとってはツライ任務になると思う。
しかし、俺達が愛するJHKの為なんとか頑張ってはくれへんやろか座花くん。
そうか。
君ならそう言ってくれると思ったわ。
ありがとう。
お互い頑張ろな。
健闘を祈る。
さて、上記の物語は遠く離れた惑星にある、ジャピーンという小国の公共放送局の会議室で起きた話であるので、私達の住む日本の公共放送局であるNHKとは全く関係ない。
だが、何とびっくり奇跡的な偶然の一致で、NHKの受信料の支払い率も芳しくないらしい。
NHKに言いたい事は山ほどあるが、素晴らしい番組を作り私達の生活になくてはならないものである事もまた事実である。
仮に、全く視聴しないからといって受信料を支払わないというのは、『私子供いないから子育て支援に使われるなら税金納めない!』と、脱税する事とさして変わらない事だと私は思う。
年間二万円以上の出費は確かに負担だが、公共放送の意義をもう一度考えるには今はちょうど良い時期ではなかろうか。
少なくとも、にこにこぷんを観て育ち、毎年紅白を観ながら年の瀬を過ごす私はそう思う。
めちゃくちゃ楽しみにしていた〝いだてん〟は、ちょっとアレやったから第一回で観るのをやめたが。
そんな、出来たらぶっ壊さないで欲しい話。