ここで会ったが木曜日

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森猛 伊亮

森猛 伊亮
中学校卒業後、不動産屋や大工、果ては証券屋やボーイなど様々な経験をつみながら、デンジャラスかつクレイジーな生活を経て、2013年より独立。

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ダチョウの話

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男には人生においてやらなければいけない事が二つある。
 
と、先程急に思いついた。
 
一つは愛する人を全力で守る事であり、もう一つはちくわでおでんダシを吸う事である、と。
 
私はあいにく家内に守られる側の人なので前者は出来ていないが、後者は先ほどやって家内にもの凄ぇ叱られた。
 
 
そらそうよ。
 
 
自分の旦那がちくわでダシを吸っていたら誰でも叱る。
 
そんな事をすれば火傷もするし、何よりちくわはストローではない。
 
生前、『食べ物をオモチャにするんやない』と、事あるごとに言っていたひぃばぁちゃんが見ていたら、恐らく私はバックドロップをかまされたであろう。
 
実際私の舌は今もなおヒリヒリしており、やった事を物凄ぇ後悔している。
 
アホである。
 
 
 
 
最近気づいたのだが、私はどうやら大変な天邪鬼(アマノジャク)である様だ。
 
上記の様な意味不明な行動も、頭ではやってはいけないとは分かってはいるのだが、そう思えば思うほどやりたくなる。
 
そう言えば、過去の私の行動を鑑みると、『働け、働け』とせっつく上司の元に配属された時は、いかに仕事をサボるかを常に考えていたし、『休め、休め』と身体を気遣う上司の元に配属された時は、内緒で休日出勤などをして死ぬ気で働いていた気がする。
 
 
我が事ながら、なんとも使いにくい部下である。
 
全くいう事を聞かない。
 
 
一事が万事そんな感じで、やれと言われたやり方では決してやろうとはせず、無理だと言われた事は意地でもやり通し、『その商品みんなが使ってますよー』とか言われると、どんなに良い商品だと思っても絶対に買わない。
 
思い返せば、テメェでも呆れるほどのアマノジャッカーである。
 
 
 
 
アマノジャッカーは大変生きにくい。
 
やれと言われたやり方をしないと当然怒られるし、全然可愛がられない。
 
『大学卒業しないとまともに生きていくのなんか無理やぞ』とか言われると、『無理な事あるかぁー!』と意地になって、不安定な中卒おじさんになるハメになる。
 
日常生活においては、定期的に購入しないといけないものなどでも、人が使わないものを使おうとする、即ち需要が少ないものを使うという事なので、すぐに廃番になったりする。
 
 
凄んげぇ生きにくい。
 
 
じゃあアマノジャッカーなんか辞めたらええやん、とか言われても、辞めろと言われたら辞めたくなくなるのである。
 
 
我ながら、大変ややこしい性格をしている。
 
 
因みに、現在一応社長というものである私には、仕事を休めという優しい上司はいない。
 
が、底抜けに優しい家内と義母が口を揃えて『体を壊しちゃいけないから、あんまり根を詰めて仕事しちゃダメだよ!』ときつく言うので、只今二十連勤の真っ最中である。
 
本当にテメェの性格が恨めしい。
 
 
 
 
さて、そんな絶対にやってはいけない事ほど絶対にやりたくなる生粋のアマノジャッカーの私であるが、この度、いつにも増してとんでもない天邪鬼ぶりを発揮してしまった。
 
今回は、流石に自分でも呆れ果てている。
 
 
 
過日、とあるメーカーさんから仕事の打診を頂いた。
 
私の会社は、メーカーさんの商品を百貨店などの小売店でメーカーさんに成り代わり販売する事を生業としている。
 
早い話が食品メーカーからの依頼であれば食品売場でウインナーなどの試食販売をし、寝具メーカーからの依頼であれば、特設会場で寝具の寝心地体験会などを開催し、販売に結び付けたりする。
 
この会社を立ち上げてから五年の月日が流れたのだが、普段仕事の依頼を頂くメーカーさんは大半が中小企業である。
 
物作りの技術は高いのだが、現場での販売力にウィークポイントを持っていたり、単純に販売現場に行く人手が足りなかったりする会社が私の会社に依頼をかけてくる。
 
大抵の場合は電話で問い合わせを頂いた後、簡単な顔合わせや条件の交渉をして条件が折り合えば契約を交わして依頼を受ける。
 
 
が、この度依頼を打診して頂いたメーカーさんはブッチギリの大企業であった。
 
 
その業種の中では国内トップクラスのシェアを誇り、テレビCMなどもバンバン打っている業界のガリバーである。
 
で、依頼の打診を頂いたのは良いのだが、いつも依頼を頂く中小企業のメーカーさんとは契約に至るまでのプロセスがちと違い、◯月◯日に〝企画書〟を持って来社してくれとの事であった。
 
 
私は結構焦った。
 
 
実は私、社会に出て長い事になるが、恥ずかしいことに〝企画書〟というものを作ったことがない。
 
大のメカ音痴なのでパソコンの扱いに不慣れであるし、そもそも、ほとんどフィーリングだけで生きているテキトー人間の為、企画や展望を図や文章にして形にするのが物凄ぇ苦手なのである。
 
なので、過去に勤めていた会社では。
 
『かくかくしかじかで、こうやって、こういう事をしたいんやけど、何とかまとめてくれ。晩飯奢るし!テヘペロ』
 
とか言って同僚などに企画書を作ってもらったりしていた。
 
そして、独立してからは大会社とは取引きがなかったので、ほとんど口頭で何とか乗り切ってきた。
 
 
が、今回はそういう訳にはいかない。
 
 
当社には、私を除いて従業員は三人しかいない。
 
社長の私よりエライ経理本部長の家内と、唯一の部下である営業の男の子と、看板犬のおもち君である。
 
本来、こういう事務仕事は家内や部下に任せるのだが、二人に話すのはなんか恥ずかしかった。
 
 
なぜなら相手は超大企業である。
 
 
普段ちくわでおでんだしを吸うような社長が、大企業から仕事が取れそうだとか言いだすのは、近所の庭師のオヤジが『エリザベス宮殿の庭をこしらえる』と言い出すくらい現実味がない。
 
ましてや仕事が取れなかった時なんぞ、とんだホラ吹きボーイだと思われたら嫌である。
 
かと言って、まさかおもち君に頼む訳にもいくまい。
 
 
 
 
という訳で、商談の日までの期間は一か月。
 
私は一人密かに〝企画書〟の作成に取り掛かったのだが、作業は予想通り困難を極める。
 
 
ウンウンと貧困な発想力を絞り出す。
 
どういう売り方をすればこのメーカーさんの商品がたくさん売れて、尚且つブランドイメージを高める事が出来るのか。
 
ウンウンウンウンと絞り出す。
 
で、たまに凄く良い案が浮かんだりする。
 
が、それをどう表現すれば良いか分からない。
 
例えば、色んな数値を表すのにグラフを入れれば分かりやすいなーと思っても、入れ方がイマイチ分からない。
 
そもそも、エクセルを使うのかワードなのかパワーポイントなのか、どれを使えば上手く表現出来るのかもイマイチ分からない。
 
 
私は何も分からない。
 
 
が、分からないと言っていても仕方ないので以前の同僚に電話したり、何気なーく、部下や家内に聞いたりして少しずつ作業を進めて一つの項目を完成させる。
 
 
そしてまた、ウンウンウンウンと捻り出す。
 
 
その作業の繰り返しであった。
 
一つの項目を完成させるのにかなりの時間を要する。
 
しかも私は変に凝り性な所があるので、顔に似合わず案外細部にこだわったりする。
 
通常業務の合間を縫い、出張中のホテルでは連日深夜までこの作業を繰り返した。
 
 
 
その結果。
 
 
 
商談の一週間前の深夜二時。
 
遂に、最高の企画書が出来上がった。
 
私は出張先のホテルでド派手なガッツポーズをかました。
 
最高の気分である。
 
私はこの最高の企画書を最高の気分のまま見直そうと、ホテルのフロント前にある自動販売機に缶コーヒーを買いに行った。
 
そしてパソコンの前に座り、コーヒーを飲みながら煙草に火を点け企画書を見直した。
 
 
ビビった。
物凄ぇビビった。
 
 
テメェで言うのもなんだが、どこからどう見たって完璧な出来栄えの企画書である。
 
制作時間三週間。
恐らく百時間くらいは注ぎ込んだ。
 
寝る間も惜しみ、手間暇かけて作り出されたこの企画書は総数70ページに及ぶ大作である。
 
アカデミックかつアメージングな出来栄えであり、しかも仕事の企画書であるのにも関わらず、ただ事ではない面白さである。
 
商談へなど行かなくとも、これをただ郵送しただけで契約に至りそうな気さえしてくる。
 
 
などと思いながら、興奮していた私は何度もパソコン画面を見直していたのだが、興奮のあまり、変なボタンを押してしまった。
 
すると、次の瞬間画面上に。
 
 
 
『このファイルを削除してよろしいですか?はい・いいえ』
 
 
 
と、表示されていた。
 
 
いや、よろしい訳がなかろう。
 
 
この企画書にどれだけの苦労と夢が詰まっていると思っているのだ、ビルゲイツよ。
 
削除なんかして良い訳なかろう。
 
絶対に消したらあかんやろ。
 
絶対にやってはいけない…。
 
 
 
 
私は生粋のアマノジャッカーである。
 
しかも時間は深夜二時。
 
妙なテンションである。
 
目の前には〝はい〟というボタンが煌々と輝いている。
 
今の私であれば、この〝はい〟ボタンは『苦労して作った企画書が消えてしまうボタンである』と、正しく認識出来るが、その時の私には〝はい〟ボタンが『上島竜兵』の背中に見えた。
 
 
目の前に上島竜兵の背中がある。
その先には熱湯風呂。
 
 
しかも、脳内の上島は押すな押すなと言っている。
 
 
 
押すよ。
そら押すよ。
絶対に面白いもん。
 
 
 
で、深夜のホテルで上島を熱湯風呂にブチ込んだ私は爆笑した。
 
それはそれは笑った。
 
だがしかし、実は上島は生きていた。
 
『ゴミ箱ホルダー』の中で生きていた。
 
中々往生際の悪い上島である。
 
ここまで来ればもう一度背中を押すしかない。
 
で、ダメ押しの一手を押してから私は再び笑い転げた。
 
 
大爆笑である。
 
 
一体何が面白かったのか、今となってはてんで意味不明である。
 
で、一通り笑い転げた私は、脳内の上島とお約束のケンカをした後そっとキスをし、パソコンを閉じて静かに眠った。
 
あー面白かった。
 
 
 
 
翌朝、部下と家内に半泣きで電話したのは言うまでもない。
 
なんでそんな大事な話を早くしないのかと、二人からこっぴどく叱られたのも言うまでもないし、二人がその後三日で作った企画書は私が作った物より数倍出来が良く、しかも70ページにも及んだものが20ページにまとめられていて、商談が物凄ぇしやすかった事も言うまでもない。
 
最初から、素直に二人に頼めば良かった。
 
 
 
 
先ほどウィキさんに聞いたところ、天邪鬼とは人や神に逆らい続けて身を滅ぼした愚かな鬼の事であるらしい。
 
なんか物凄ぇ怖い。
 
が、色んなものに逆らい続けていれば、いつか身を滅ぼすのは当然である。
 
今更であるが、これからは少しづつ色んなものに逆らわずに生きていければ良いなと思ったり思わなかったりする。
 
と言う訳で、とりあえず手始めに今日はしっかりと休んでタピオカミルクティーを飲みながら、仮装をしてカボチャパーティーでもしようかと思う。
 
 
そんな、ハロウィン初参加の話。