ここで会ったが木曜日

木曜日は『木曜日の話』月曜日は『月曜日の辞書』

森猛 伊亮

森猛 伊亮
中学校卒業後、不動産屋や大工、果ては証券屋やボーイなど様々な経験をつみながら、デンジャラスかつクレイジーな生活を経て、2013年より独立。

詳しいプロフィールはこちら

うさぎとカメの話

f:id:kokomokumoritake:20191002222243p:plain

【この記事は約5分で読めます】

 

 

遡る事三十年ほど前、今でこそボーリング玉の様な腹をしている私であるが、当時は玉の様にかわゆい幼児であった。

 

その後のクレイジーな人生を思うと誠に意外な事実であるが、私にもそういう時期が確かにあった。

 

で、当時平仮名を読む事を覚えた伊亮少年は絵本を読む事にハマった。

 

 

家にいる時間は、テレビも見ずにずーっと絵本を読んでいた。

 

 

大人からもらう誕生日やクリスマスのプレゼントは全て絵本をリクエストし、『お母さんが代わりに貯めておく』の儀式が終わった後に僅かに残るお年玉も全て絵本に変わる。

 

大人とはえらいもんで、伊亮少年が〝ミニカー〟にハマった時には何故かあまり買ってはくれなかったのに、絵本はすぐに買ってくれる。

 

みるみるうちに本棚はいっぱいになっていったのだが、この時私は、自分の読書の癖に気づく。

 

 

『さるかに合戦』ばっかり読む。

 

 

理由は単純明解で、牛のうんこが猿に向かっていくのが面白くて仕方なかったのである。

 

中々のアホである。

 

で、同じ本ばかり読む自分の癖に気づいた私は、これでは他の絵本がもったいないと思い、本棚の左から順に読んでいくという自分ルールを決めた。

 

だが、順番がくる度に読むのをためらう絵本が二冊あった。

 

一冊は〝赤い靴〟という話である。

 

ご存知の方も多いと思うが、『切断された足が赤い靴を履いたまま永遠に踊り狂う』というほとんどホラーな衝撃のラストシーンが怖すぎて、全然読みたくなかった。

 

実は、大人となった今でもトラウマである。

 

 

 

そして、私が読むのを躊躇したもう一冊が〝うさぎとカメ〟である。

 

こちらは赤い靴とは違い、別に怖い場面などが出てくる訳ではない。

 

そういう訳ではないのだが、私はこの話を初めて読んだ時、、、

 

 

ギャン泣きした。

 

 

それはそれはギャンギャンと泣いた。

 

理由については、ちょっと理解出来ない人もいるやも知らんが、幼き私は『カメが可哀想過ぎる』と思ったのである。

 

つまるところ、『うさぎ寝ぇへんかったら、絶対カメ勝たれへんやん』と、その圧倒的な力の差に絶望したのである。

 

 

伊亮少年はめちゃくちゃ絶望した。

 

 

一生懸命頑張っても、寝ないうさぎにはカメは勝てない。

 

努力とは生れながらに持った才能の前では無力である、と私は思った。

 

少年の心は繊細である。

 

こんな事で涙を流す、ピュアでアメージングな心を持っているのである。

 

かわいそうな伊亮少年。

 

もし私が、当時の伊亮少年の前に立つ事が出来たなら、一言こう言ってやりたい、、、

 

 

 

『お前、アホか?』、と。

 

 

 

今すぐにでも、タイムマシーンに乗って言いに行きたい。

 

当時の私は、大変バカであった。

 

いや、今もそれなりのバカではあるが、当時よりはマシである。

 

伊亮少年はなぜこんな事を思ったのか、まぁ気持ちは分からん事もない。

 

 

 

 

伊亮よ。

 

お前あれやろ?

ミカちゃんに運動会のかけっこで負けたんやろ?

 

知ってる。

超知ってる。

 

女の子に負けて悔しがるのも恥ずいし、笑うのもなんか違うしで何とも言われへん顔してたもんな!

 

ミカちゃんはミカちゃんで、勝ってもうた…みたいな顔するし、なんか変な空気なってたもんな!

 

しかもミカちゃんの事好きやしな!

 

そら泣くよ。

 

そのタイミングで二着おめでとうって、祝いの絵本が〝うさぎとカメ〟やったらそら泣くよ。

 

分かる。

超分かる。

 

 

 

けどな伊亮よ。

 

いやまぁ俺も伊亮なんやけど。

なんて?

 

いや、禿げてへんで。

ちょっとデコが広くなっただけ。

いや、デコはいいから俺の話を聞け。

 

あのな、心配せんでもミカちゃんには来年の運動会では勝つ。

 

お前超ニコニコで家帰るから大丈夫。

 

まぁその頃にはもう、さっちゃんを好きになってるけどな。

 

とりあえず運動会ではミカちゃんには勝つ。

それは心配するな。

 

 

 

でもな。

俺が言いたいのはそういう事じゃないねん。

 

お前さっき〝うさぎとカメ〟読んで泣いてたやろ?

 

 

寝ぇへんうさぎにはカメは勝たれへんって。

 

 

それ間違いやから。

 

全然勝つ。

めっちゃ勝つから。

 

お前はな、中学二年で大工の見習い始めるんやけど、恐ろしく手先が不器用なんよ。

手先不器用な大工ってもう致命傷なんよな。

 

何やってもめっちゃ下手くそ。

 

ただ親方がめっちゃ良い人やから、お前の面倒見てるだけ。

 

後から入った人にどんどん追い抜かれて、お前はまた〝うさぎとカメ〟思い出して家で泣く。

 

才能がどうやこうやって。

 

そらそうよ。

 

才能ってあるから。

 

今のお前がミカちゃんに勝たれへんように、俺もカールルイスには勝たれへん。

 

いくら頑張ったって絶対勝たれへん。

 

 

 

けどな、良く考えろ。

 

カメはかけっこ対決したらうさぎには勝たれへんけど、水泳対決やったらうさぎに勝つねん。

 

で、大人になったら何対決で戦うかは自分で決めれるんや。

 

俺の場合、手先は恐ろしく不器用やけど、物を販売するのはなんかめっちゃ得意やってん。

 

だから、大工では他の人に負けまくりやったけど、物を販売することに関しては、人に負ける事もあんまりない。

 

ええやろ。

 

そんなんは俺だけじゃないで。

 

西野っていう俺の友達がいるんやけど、今あいつが働いてる会社には最初営業で入社したんや、でも壊滅的に営業センスが無いから売上げがずーっと良くなくて、総務に配置転換されたんや。

 

そしたら今や総務にそいつがいないと、仕事が回らへん位頼りにされる存在になった。

 

人生そんなもんよ。

 

 

 

お前の好きなスヌーピーが『配られたカードで勝負するっきゃないのさ』とか言ってたんやけど、あれは半分正解で半分間違いやと俺は思う。

 

大富豪するのに3ばっかりきたら不利やん?

 

じゃあ負けそうって思ったら、ババ抜きしてるテーブルに行くんや。

 

お前はまだ小さいからしたらあかんけど、大人になったら全然やって大丈夫やから。

 

ホンマに。

 

たまに無理矢理大富豪続けるやついるけど、勝たれへんもんは勝たれへんから。

 

カールルイスと100メートル走っても絶対勝たれへんから。

 

練習でどうこうなる話じゃないから。

 

俺ならカールルイスとは漢字ドリル早解き対決で戦う。

 

多分お前でも勝てるはず。

 

 

 

ただな、勘違いするなよ。

 

苦手な事から全部逃げて良いって言ってる訳じゃないぞ。

 

時には困難に立ち向かわなあかん事もあるし、場合によっては明らかな負け試合に挑まなあかん時もある。

 

それは絶対ある。

 

けど、絶望はすんな。

 

何とかなる。

 

めっちゃ頑張ったら何とかなるから。

 

やっべ、俺死ぬかもって、多分四回は思う。

 

でも大丈夫。

 

お前は絶対大丈夫やから。

 

お前はカメのクセにたまに昼寝したりするけど、お前の周りには味方になってくれる寝ないうさぎが沢山いて、お前の事ちゃんと助けてくれるから。

 

 

 

後な、最後に一つお前に言いたい事がある。

 

お前が大人になった時、うさぎとカメみたいな状況になる時がいっぱいある。

 

めっちゃくちゃある。

 

お前がうさぎ側の時もあるし、カメ側の時もある。

 

で、その時お前がうさぎ側やったらカメをバカにせんと、もちろん寝たりせんと、カメと一緒に歩いたれ。

 

んで、お前がカメ側やったら、見て見ぬふりせんと、うさぎ起こして一緒に歩いたれ。

 

言ってる意味分かるか?

 

ホンマに?

 

お前凄ぇな。

めっちゃ賢いやん。

 

いつからアホになるんやろ。

 

 

 

 

そんな、童話はあくまでも童話の話。